「ハート雲」

1人の女の子が天に祈りました。

「どうか、幸せになれますように。

 今よりも、もっと幸せになれますように。」

天は、優しく微笑みました。

「あなたは今、幸せではないのですか?」

女の子は答えます。

「はい。毎日がただ淡々と過ぎてゆきます。

 朝起きて、一日過ごして夜がやってくる。

 その繰り返し…。幸せな出来事は、

 いつまで待ってもやってこないのです。」

天は、優しく答えます。

「何も起こらないのですね?

 病気になる人も、事故にあった人も、家がなくなることも、

 食べ物がないということもない平凡な毎日なのですね。」

女の子は大きくうなずいて、また頼みます。

「どうか、幸せな出来事を私に与えてください。

 そしたら、きっと私は幸せになれると思うのです。」

天は、しばらく沈黙し、優しく答えました。

「あなたはすでに、こんなにも幸せなのですよ。

 あなたはすでに幸せを手にしている。

 何も起こらないということは、幸せなのです。

 何も起こらない毎日を当たり前のように過ごすことができる。

 これは、極上の幸せなのです。

 でもね、幸せを感じられるかどうかは、あなた次第です。

 この当たり前のような日々を極上の幸せだと感じる心があるかどうか…。

 幸せというものはね。出来事が与えてくれるのではないのです。

 幸せというものは、あなたの心が創りだすもの。あなたの心に生まれるもの。

 さあ、この雲をプレゼントしましょう。

 この雲をあなたは、どう見ますか?」

天は、お空の水滴を集められ、ハート型の雲をつくりました。

女の子は大喜び。

「ハートに見えます!

 なんだか、見ているだけで心がホカホカ温かくて、とても幸せな気分です!

 幸せな出来事を起こしてくださったのですね!」

天は答えます。

「違います。この雲は、ただの雲です。

 ただの雲だと思う人も多いでしょう。でもただの雲と思う人の心には、

 残念だけれど、今のあなたの心のような幸せは生まれなかったでしょう。

 今あなたは、このただの雲をハートの雲だと言って、大喜びをし、

 幸せな気分だと言いました。」

女の子はじっと耳を傾けます。

「もう、わかりますね?もう一度、言います。

 幸せというものはね。出来事が与えてくれるのではないのです。

 幸せというものは、あなたの心が創りだすもの。あなたの心に生まれるもの。

 だとしたら、あなたの何も起こらない日々の中にあなたが創りだす幸せは、

 どれほどまでに溢れていることか!

 あなたは、このただの雲をハートの幸せ雲と見てその心は満たされた!

 それが、幸せの本質なのですよ!」 

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